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スマホジャーナリストが電気自動車『Honda e』を選んだ理由【石川 温】

スマホジャーナリストが電気自動車『Honda e』を選んだ理由【石川 温】

EVsmartブログ執筆陣である木野さんや編集長の寄本は石川さんとは長年の友人ですが、コロナ禍で飲み会もご無沙汰で、迂闊にも1年近く前に石川さんが電気自動車オーナーになっていたことに気付いていませんでした。今年からはことに、新たなEVオーナーが増えるはず。はたして、EVってどうなのか。正直な気持ちを語っていただく記事を、シリーズでお届けしていきます。

テスラ『モデルS』に感動したのが序章

自分は「スマホ・ケータイジャーナリスト」という肩書きで執筆活動をしている。iPhoneなどのスマートフォンで新製品が出たらレビュー記事を書いたり、通信関連のニュースがあれば様々なメディアでコメントをしている。

そんな筆者がHonda eを2021年春に購入した。

当時、なんとなくクルマを探していたのだが、見つけた瞬間、「これだ」と衝動買いしてしまったのだ。

その昔、BMW MINIに乗っていたこともあったが、10年以上前に手放してしまっていた。それからというもの都内に住んでいるということもあり「移動は徒歩、電車、タクシーで十分。クルマが必要ならレンタカー」と思っていた。

しかし、2014年にアメリカ・シリコンバレーに取材に行った際、知り合いにテスラのモデルSに乗せてもらう機会があった。大きなタッチパネルディスプレイ、さらには自動運転アシスト機能などに感動した。「次にクルマを買うなら、テスラのような先端技術が詰まったクルマがいいな」と思った。

これからのメガトレンドはモビリティ

それから6年が経過した2020年1月、アメリカ・ラスベガスで開催された技術関連展示会「CES」を現地で取材していると、ソニーがプレスカンファレンスでEV「VISION-S」を開発していることを発表したのだ。

モビリティの進化を支える技術(YouTube)※2020年1月、CESでの発表風景動画(YouTube)

吉田憲一郎ソニー社長は「過去10年間、スマートフォンをはじめとするモバイルが私たちの生活を根本から変えたと言っても過言ではない。しかし、次のメガトレンドはモビリティだと信じている」と語った。

ソニーは「Xperia」というスマートフォンを出しており、ずっと取材対象だった。そのソニーがモバイルからモビリティにシフトしていく。スマホ・ケータイジャーナリストとしては取材対象が逃げていってしまう危機感を覚えた。ラスベガスで「こりゃ、自分もモバイルからモビリティにシフトしないといけないな」と思い始めたのだ。

2020年春以降、コロナの感染拡大が本格化してきた。

それまでは毎日のように記者会見などに足繁く通っていたのだが、コロナ禍になると会見がオンラインで開かれる一方で、新製品の体験会などは人数限定でリアルで行われるようになった。

スマホジャーナリストが電気自動車『Honda e』を選んだ理由【石川 温】

リアルで開催される体験会の直後にオンラインでのインタビュー取材が入ると、「静かにオンライン会議に参加できる場所」を確保するのが厄介だったりする。そんなときに「クルマがあると便利かも」と思い始めた。クルマがあれば、移動しつつ、すぐにビデオ会議に参加できる。世間で発表されていない情報を聞き出すときも、クルマのなかであれば、周りの目や耳を気にする心配がない。

また、子供が4歳になり、予想外に動き回る一方で、妻が膝の手術をした。電車で移動すると、駅のホームで子供はすばしっこく先に走って行く中、妻は歩くのが遅く、どんどん後ろに置き去りになっていく。間に挟まれた自分はどうすることもできなくなってきた。家族の移動も「クルマがあったほうがいいな」という結論に至った。

とはいえ、自宅は一戸建てなのだが、駐車スペースはコンパクトカーか軽自動車ぐらいしか停められない広さしかない。自宅の前の道路もとても狭い。コンパクトカーを選ぶならレンタカーやシェアリングサービスを使えば十分かもと思っていた。

Honda eを試乗してすぐに注文!

そんななか、Honda eが2020年10月から発売されていたことを知る。2017年の東京モーターショーで「Honda Urban EV Concept」として参考出展されていたのを目撃していたが「こんなかたちで製品化されることはないでしょうに」と冷めた目で見ていた。しかし、実際に発売されているHonda eはコンセプトモデルにかなり近い。

「マジか!」

Honda eをグーグルで検索しまくって情報を収集。1000台限定ということで慌ててHonda Carsに試乗予約を入れ、試乗。その場で購入を決めてしまった。

衝動買いした理由はHonda eが「スマホっぽいクルマ」だったからだ。Honda eはダッシュボード部分に大きなディスプレイが並び、タッチパネルで操作。「オッケー、ホンダ」と音声認識でAIパーソナルアシスタントを起動できる。アップル・CarPlayなどスマートフォンとの接続も可能。

さらにHonda eにアプリをダウンロードすることもできる。通信機能を備え、車内にWi-Fiの電波を飛ばすことも可能だ。

まさにHonda eはスマホっぽいクルマであり、スマホ・ケータイジャーナリストという職業柄、自分で試したくてウズウズしてきた。新製品は誰よりも先に触って、実体験をレビュー記事として公開する。まさに人柱の職業にぴったりのクルマだったのだ。

Honda eには100V ACコンセントが備え付けられている。車内でビデオ会議などのパソコン仕事も、パソコンのバッテリー残量を気にすることなくできてしまう。HDMI端子を備え、スマートフォンやタブレットの画面をディスプレイに出力できる。オンラインで開催される記者会見をHonda eのディスプレイに出力して視聴できてしまうのだ。

ソニーの「VISION-S」は車内でエンターテインメントを楽しめるモビリティ空間として開発されている。「車内をリビング空間に」というHonda eにも共通するコンセプトだったりする。将来的にEVであるVISION-Sが発売される前に、最新のEV、モビリティを知っておくにはHonda eは最良の教材のように感じた。

またHonda eはコンパクトかつ最小回転半径が4.3mと、自宅周辺のとても狭い道でも難なく走行できるのも購入の背中を押された点だ。テスラではなくHonda eを選んだのも「コンパクトだから」というのが大きい。テスラでは自宅の駐車スペースに止めるのは無理だった。

また、自宅が一戸建てということで、200Vのコンセントを設置できる場所はなんとか確保できた。

ホンダは特別なブランドでもあった

もうひとつ、Honda eを選んだ理由が「ホンダがF1に参戦していたから」というのもある。

中学生時代にF1にハマり、セナが事故死したときは青山一丁目のホンダ本社にも行った。その後もF1を見続け、出版社を辞めたときには、フリーの編集者としてF1雑誌の編集部で仕事をしていたこともある。F1好きにとって、ホンダは特別なブランドだ。

ホンダF1第2期から30年が経過して、ようやく一人の男がホンダのクルマを購入した。

昨年、ホンダは30年ぶりのドライバーズチャンピオンを獲得したものの、F1から撤退した。

ホンダとしては経営資源を見直すためにF1から撤退したのだろう。確かに目先の収益確保を考えればF1撤退は賢明な経営判断だ。しかし、ここに、初めてホンダF1に触れてから30年後に、ようやくホンダのクルマを購入した男がいることを考えると、ホンダがF1から撤退することで、30年後の見込み客を失うことにつながりはしないだろうか。

ようやく常勝できるようになったホンダのF1撤退はなんともいろんな意味でもったいない気がしてならないなと、Honda eを目の前にして思うのだ。