コロナ禍において、駅周辺や街の滞在人口を把握するうえで欠かせない存在となったスマートフォンの「人流データ」。国際航業と横浜市立大学大学院データサイエンス研究科の佐藤彰洋教授の研究グループは、街中にあるフリーWi-Fiをスマホが自動検知した際に記録される位置情報などを使って、1m2当たりの人口密度(推計人数)の算出などに成功した。
2019年、20年、21年における渋谷駅半径1㎞範囲内の活動人口の推移。フリーWi-Fiの接続情報を基にした人流データから求めた(資料:国際航業)[画像のクリックで拡大表示]フリーWi-Fiの接続情報を基にした人流データは、ユーザーの同意を得て個人を特定できない形で第三者に提供されるものだ。国際航業は2018年度から、フリーWi-Fiを扱うアプリ事業者と業務提携。その会社が蓄積しているログデータを補正・解析した「Wi-Fi人口統計データ」を開発した。1カ月当たりのアクティブユーザー数は延べ約350万人だ。
Wi-Fi人口統計データは、位置情報のほか、性別や年代といった属性情報を、緯度と経度によって網の目のように細かく区切った区画(メッシュ)ごとに統計を取るデータだ。メッシュ統計データと呼ぶ。長期間のログを分析して、推定居住地を割り出すことも可能だ。
国際航業はこれまで、公園や商店街、施設などの利用実態調査に、Wi-Fi人口統計データを使ってきた。
ただしフリーWi-Fiから得られるビッグデータには、様々な課題がある。例えば、フリーWi-Fiのアクセスポイントから発する電波の範囲内にいる人のデータしか得られないので、部分的な観測になってしまう点だ。また、通常の統計調査と違って、集める標本サイズ(調査対象者数)を調査者が制御できない。
左は従来の標本調査のイメージ。右はフリーWi-Fiの電波領域のスマホを部分的に抽出するイメージ(資料:国際航業)[画像のクリックで拡大表示]そこで国際航業と横浜市立大学では、Wi-Fiのアクセスポイントの電波領域を推計。スマホが接続できる範囲やそこから得られる標本サイズ、範囲の重なりなどについて確認した。そのうえで、1mメッシュごとの人口密度を算出できるようにした。
国際航業は現在、125mメッシュで人流データを取り扱っている。これまでは、メッシュ内におけるフリーWi-Fiのアクセスポイントの電波領域カバー率が1%でも99%でも、集まったデータを同列に扱っていた。
一方、1mメッシュでの評価が可能になれば、電波の届く範囲が分かる。そのため、取得したデータの信頼性がより高まるわけだ。
「125mメッシュの人流データを商品とした場合、信頼性の高いデータと低いデータを、用途ごとに使い分けられるようになった」。国際航業LBSセンシング事業部プラットフォームグループの渡邊剛史担当課長はこう話す。
水色の円がフリーWi-Fiのアクセスポイントの電波領域。1mごとのメッシュで濃淡を付けられるようになったため、人の移動している道路付近で人口密度が高い(濃くなる)様子が表されている(資料:国際航業)[画像のクリックで拡大表示]