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緊急地震速報より速く高精度!BCPで注目「ユレーマス」の地震警報

緊急地震速報より速く高精度!BCPで注目「ユレーマス」の地震警報

大地震はいつどこで発生してもおかしくありません。風水害と異なり地震の予知・予測は困難です。いかに早く発生を察知して対応するかがBCP対策など防災のポイントになります。

「ミエルカ防災」の地震警報システム「ユレーマス」は、気象庁の緊急地震速報より数秒早く地震の発生を検知して知らせます。その数秒で緊急対応ができるとして、導入企業が年々増えています。開発の経緯と導入の効果などについて、ミエルカ防災の松尾勇二社長、潮田邦夫副社長、柳澤繁取締役にインタビューしました。

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(左から潮田邦夫副社長、松尾勇二社長、柳澤繁取締役)

ミエルカ防災の事業と「ユレーマス」の開発の経緯について

――地震警報システム「ユレーマス」が開発された経緯を教えてください。

(松尾氏)私たちミエルカ防災は「ユレーマス」をはじめ、地震の揺れを検知して知らせる地震警報システムを開発する企業です。その歴史は、気象庁の緊急地震速報が開発された歴史と重なっています。

「突然発生する地震の揺れを少しでも早く通知できる方法を」と、2003年にNPO法人リアルタイム地震情報利用協議会(REIC、2011年にリアルタイム地震・防災情報利用協議会と改称)が発足しました。一方、気象庁は防災科学技術研究所と緊急地震速報サービスを開発し、2007年から緊急地震速報が始まりました。

私たちの開発も、REICと共同で2005年からスタートしたのです。2011年の東日本大震災を経て2013年に「ミエルカ防災」を設立し、2015年に光回線の通信ネットワークで結び、より早く通報する「ユレーマス構想」のサービス提供を開始しました。それまでは観測情報を単独の機器を設置する形で提供していました。

「ユレーマス」の命名は、地震計のイメージを持ちやすいようにという考えからです。2015年に社長に就任し、周りに「こんな名前はどうだろうか」と話したら、「そんな英語ありましたっけ」と調べておられた方もいました。地震の観測で何か新しい用語ができたのかと勘違いされたみたいでした。

地震警報システム「ユレーマス」の仕組み

――ユレーマスはどのような仕組みなのでしょうか。

(潮田氏)ユレーマスには2つの特徴があります。ひとつは、導入する企業が必要とする拠点の敷地内に3台の地震計を設置し、そのうちの2台で感知した揺れによって地震発生を検出するところ。これにより、特定の地での地震発生をより早く計測することができます。もうひとつは、全国各地に設置したすべてのユレーマスが光回線の通信網でつながり、ネットワークになっているところです。

地震波にはP(Primary)波とS(Secondary)波があります。強い揺れを起こすのはS波ですが、S波の速度(約4km/s)はP波(約7km/s)に比べて少し遅いので、その差を使って速報を出します。光回線の速度は30万km/sと桁違いに速いため、ネットワークを使ってさらに先回りし、お客さまへ情報を出せるようにしているわけです。

この2つの特徴によって気象庁の緊急地震速報より数秒早く、地震の覚知が可能になっています。

(画像引用:ミエルカ防災-「ユレーマス」http://mieruka.co.jp/yuremas/)

ユレーマスを導入した企業の活用例

――「数秒の差」についてもう少し詳しく教えてください。

緊急地震速報より速く高精度!BCPで注目「ユレーマス」の地震警報

(柳澤氏)たった数秒ですが、「それが大きな分かれ目になる」と導入した企業の皆さんは言われます。例えば、導入企業のひとつ「三菱地所」では、高層ビルのエレベーターの自動停止機能に活用されています。高速エレベーターは、地震を検知してから最寄りの避難階で安全に停止してドアを開けるのに10秒必要です。気象庁の緊急地震速報より数秒でも早ければ、それだけ安全に避難できる可能性が高まります。

――エレベーターの閉じ込め事故がそれだけ減りますね。

精密機械の工場でも、高性能の機械を安全に停止させることができれば、操業再開が早められます。やはり導入企業のひとつ「ソニー」の九州工場は、デジカメなどのイメージセンサーを生産しており、その機械は2秒あれば、安全に停止できます。しかし、熊本地震の際、この2秒を確保できなかったばかりに復旧作業が難航し、生産を再開するまでに3か月半もかかったそうです。

――社会インフラでの導入例はどうでしょうか。

交通機関の車両の転覆や脱線防止にも役立ちます。大阪と京都を結ぶ「京阪電鉄」を対象にした研究で、朝の通勤時間帯に震度7の揺れが起こった場合のシミュレーションを行ったことがあります。ユレーマスがあれば最大で8秒近くの時間を確保でき、脱線などの事故を減らすことができる結果が得られました。人命をお金に換算するのかと言われると心苦しいのですが、ユレーマスの設置で防ぐことができる死傷者の生涯賃金を計算すると、約6400億円の減災効果があると算出されたのです。

(画像引用:独立行政法人 経済産業研究所(RIETI)-プレゼンテーション資料よりhttps://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/21051201_yanagisawa.pdf)

そのほか、災害発生時のパニック防止などにも有効です。小中学生の工場見学を多く受け入れている飲料メーカーでは、館内放送と連動させて冷静に避難行動をとることができるように備えています。スタッフが一瞬早く覚知することで、落ち着いた避難誘導を呼びかけることもできるわけです。

ユレーマスがカバーするエリアについて

―――地震発生をカバーしているエリアについて教えてください。

(潮田氏)ユレーマスが提供する地震発生の情報には、「基幹ユレーマス」「準基幹ユレーマス」「エリアユレーマス」「ユレーマスライト」の4つの種類があります。

「基幹ユレーマス」は、利用者のビルなどに3台の地震計を設置して震度を予測するシステムです。「準基幹ユレーマス」は、近くの基幹ユレーマスから5km以内であれば、利用者のビルなどに設置する地震計は1台で、基幹ユレーマスと緊急地震情報を基に揺れを予測します。「エリアユレーマス」は、近くの基幹ユレーマスから1km以内であれば、地震計は設置せず、基幹ユレーマスと緊急地震情報を基に揺れを予測するシステムです。「ユレーマスライト」は、エリアユレーマスの普及版です。利用者のネットワークを使って情報提供するシステムで、基幹ユレーマスのネットワークができあがっている首都圏などで有効に機能します。

(画像引用:ミエルカ防災-「ユレーマス」http://mieruka.co.jp/yuremas/)

――その範囲内で地震が発生すれば覚知できるわけですね。

基幹ユレーマスから50km以内を震源とする地震では、ほぼ気象庁の緊急地震速報より早い実績が出ています。また、気象庁の緊急地震速報(事業者用)も活用していますので、早い方の情報でより早い検知が可能となります。現在、基幹ユレーマスは14社が導入し、28基(さらに2基を計画中)、エリアユレーマスは17基の設置が進んでいます。首都圏の場合、主だった活断層の近くに基幹ユレーマスが設置され、ネットワーク網が構築されています。関西圏、中部圏、九州もカバーするなど、全国に広がりつつあります。

(画像引用:ミエルカ防災-「ユレーマス」http://mieruka.co.jp/yuremas/)

(柳澤氏)大規模な地震は首都直下に限りません。活断層は各都市の下に眠っていますし、まだ発見されていないものもたくさんあります。京阪電鉄のシミュレーションをしたときに改めて感じましたが、大阪・京都でも伏見(京都市)や上町台地(大阪市)などは、歴史的に大規模な地震に見舞われています。

ユレーマスは、設置の数が増えてネットワークが広がるほど、導入企業全体でより早く、より正確な地震情報を活用できるシステムです。導入企業が1社でも増えてほしいと願っています。

ユレーマスのデータを活用した新サービスについて

――「ユレーマス」以外のサービスも始めたとうかがいました。

(松尾氏)専用タブレットでユレーマスの情報を受信する「ユレマモリ」というサービスも始めました。ユレーマスの情報は、制御信号を詳細に管理するため、防災センターのような情報処理システムの中枢に設置することが多いのですが、その情報を携帯できる端末でも受信できるようにしたのです。警備や見守りが必要とされる施設、公共施設や商業施設、移動車両などに実装すれば、さらに地震情報の活用は広がると確信しています。

(画像引用:ミエルカ防災-「ユレマモリ」http://mieruka.co.jp/yuremamori/)

私たちはいかに早く正確に地震を検知し、社会の皆さんに役立ててもらえる情報をすばやく出せるかーー社会のインフラとしてのデータ提供を目指しています。このデータをどう活用するか、利用する企業の皆さんでアイデアを膨らませてほしい。そのサポータとして、私たちは開発に勤しんでいます。

まとめ

ユレーマスがつくる「数秒」の時間で安全な停止・危険回避ができる仕組みがあれば、いつどこで発生するか予測できない大規模地震に対する初動での対応の可能性が広がり、BCPの強い味方になりそうです。

ミエルカ防災:http://mieruka.co.jp/本社:東京都千代田区神田須田町。設立は2013年10月。2015年から企業向けに地震を速報するユレーマスサービスを開始。2021年5月に「地震警報システム」ユレーマスシステムの特許を取得した。導入には断層の状況や地盤の状態などを調査・確認する必要があるが、初期費用は不要で、サブスクリプションサービスとなっている。

<執筆者プロフィル>南部優子防災ファシリテーター研修・訓練による人材育成や教材作成など、組織対応力の総合的な強化を図る業務の企画・運営多数。内閣府、地方自治体、公的企業体、NPO法人などが実施する防災・BCP研修の講師としても活躍。

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