がれきの山や倒壊家屋の隙間を進み、生存者を見つけ出す災害救助犬。自然災害が相次ぐなか、その活躍を目にする機会も多くなった。ただ、国内に統一された出動資格は存在せず、民間団体などがそれぞれのルールで活動し、捜索スキルもまちまちというのが実情だ。多くの現場を踏んできたベテランのハンドラー(訓練士)は「一人でも多くの命を救うためにも、基準づくりが必要だ」と訴えている。(小松大樹)
藤沢市を拠点とする「救助犬訓練士協会」は、7月に静岡県熱海市で起きた土石流災害でも活動した。ハンドラーの大島かおりさん(57)と、パートナーのエンゾウ(5歳雄、ベルジアンシェパード)がぬかるんだ泥をかき分けて、助けを待つ人を捜索。大島さんは、二次災害の危険もあったため、思うような働きができなかったと悔やみながらも、「救助犬の受け入れ態勢は徐々に良くなってきている」と語った。
協会理事長の村瀬英博さん(68)によると、日本で救助犬の認知度を高めるきっかけとなったのが、1995年の阪神・淡路大震災だ。海外から、たくさんの救助犬チームが応援に来てくれた影響で、NPO法人が次々にできたという。
それでも、2004年の新潟県中越地震では、村瀬さんたちが発生当日に到着したにもかかわらず、捜索活動に参加できたのは3日目。生存率が急激に低下するとされる「72時間」が迫っていた。「救助犬になじみがなく、被災地の人たちも、我々を現場に入れていいのか分からなかったのだろう」と振り返る。
18年の北海道地震では、ヘルメットをかぶらないなど不十分な装備で活動したチームもあった。夜間に飲酒をして騒いだり、捜索中に犬がいなくなってしまったりというトラブルも起きたという。
試験パス条件 ハンドラーと救助犬の力量については、国連が事務局を務め、各国救助チームの調整などを担う「国際捜索・救助諮問グループ(INSARAG)」の認定組織による試験がある。欧米では、この試験をパスすることが国内外の災害現場で活動する条件になっている。
世界最大級のボランティア組織「国際救助犬連盟(IRO)」は、災害現場を模した環境下で36時間をかけて試験を行う。捜索スキルはもちろん、テントを張った野営生活、救助犬が負傷した際の応急処置などの知識と技術も試される。合格者は実際の現場でINSARAGの調整下に入るため、連絡系統も統一が図れる。
警察犬のハンドラーだった村瀬さんは約30年前、ドイツでの世界選手権に出場し、レベルの違いを痛感すると同時に、災害救助犬こそが「究極の探知犬」だと教わった。自分自身の勉強と犬の育成を続け、8年前、長野県富士見町に「八ヶ岳国際救助犬育成センター」を開設。国際レベルの試験も実施し、他団体にも参加を呼びかけている。
現在は国内で唯一、パートナーの文治郎(7歳雄、ジャイアントシュナウザー)とIROから国際出動認定を受け、国際試験の審査員を務めるまでになった村瀬さん。「見つける楽しさを教えてあげれば、犬は我々が想像できないほど成長してくれる。まずは国内の統一資格をつくり、犬の持つ力を救命につなげていきたい」