図1: ドライアイリズム
図2: ドライアイの多様な症状の層別化 次元削減アルゴリズムUMAPを用いてドライアイの多様な症状を7つのクラスターに層別化した。 UMAP:Uniform Manifold Approximation and Projection
そして、階層型クラスタリングを用いて層別化された各クラスターのJ-OSDIの12項目のスコアを視覚化しました(図3)。例えば重症群であるクラスター1は全ての症状が悪く、クラスター5では環境因子に関連して症状が強いことがわかります。図3: 層別化された各クラスターの多様なドライアイ症状の視覚化 階層型クラスタリングを用いて層別化された各クラスターの多様なドライアイ症状を視覚化した。X軸はJ-OSDIの12項目スコア、Y軸は層別化された各クラスターを表す。
さらに各クラスターに対してドライアイリズムから収集した生体情報(最大開瞼時間:まばたきを我慢できる時間)を用いたデジタルフェノタイピングを実施しました(図4a)。症候性ドライアイではスマホアプリで測定した最大開瞼時間が短くなることがわかりました(図4b)。層別化された各クラスターにおいて特徴的な最大開瞼時間の変化を示しました(図4c)。このことから、スマホアプリでまばたきを計測することで、ドライアイのスクリーニングならびにドライアイのタイプを予測できる可能性があります。 図4: 最大開瞼時間を用いたデジタルフェノタイピング*P<0.05, ***P<0.001そして、次に各クラスターの特徴を多変量ロジスティック解析から算出し、視覚化しました (図5)。[図5]図5: 層別化された各クラスターの特徴の視覚化 各クラスターの特徴的な因子(円の外側にそれぞれの因子を記載)を視覚化した。 中央の棒グラフはオッズ比(95%信頼区間)を表す。
以上の結果から、ドライアイの多様な症状を層別化とその特徴の解明ならびに、最大開瞼時間を用いたドライアイのデジタルフェノタイピングの手法の開発に成功しました。スマホアプリから個々人のドライアイ症状を収集し検証することで、ドライアイの早期発見、予防、効率的な治療につながる可能性があります。今後の展開本研究では、スマホアプリから収集したクラウド型のドライアイ関連ビッグデータを用いてドライアイの多様な症状の層別化とデジタルフェノタイピング手法の開発に成功しました。これにより、多様なドライアイの症状に対して個々人に最適化した対策がとれるようになることが期待されます。また身近なスマホアプリを用いることから、ドライアイの早期の予防および効果的な介入につながることも期待できます。さらに研究を進め、ドライアイの症状管理、重症化抑制や予防介入が可能なスマホアプリの開発を目指していきます。これにより様々な疾患や症状に対して、スマホアプリを使った予測・予防・個別化医療や参加型医療を推し進める原動力となると考えています。用語解説*1 ドライアイリズム® : 2016年10月に順天堂大学眼科がResearchKitを用いて作成したドライアイ研究のためのスマートフォンアプリケーション。ドライアイの症状、瞬目(まばたき)の計測、花粉症によるQoLや労働生産性への影響などの評価が可能である。ドライアイリズム®の商標は順天堂大学発のベンチャー企業であるInnoJin株式会社が保有します。*2 クラウド型大規模臨床研究: クラウドとはクラウドコンピューティングの略で、インターネットなどコンピューターネットワークを経由して、サービスを提供する方法である。クラウド型大規模臨床研究とは、実際の問診票や質問紙票を持たなくても、インターネットを通じて大規模に行う研究を指す。*3 層別化(医療): ある疾患に属する患者を,バイオマーカーを用いていくつかのサブグループに分類し,それぞれのサブグループに適した治療法を選択することを目的とした医療。*4 デジタルフェノタイピング:スマートフォンやウェアラブル機器等のモバイルヘルスに収集される刻々と推移するデジタル化された個人の行動、生体情報、生活習慣等の表現型を定量化すること。原著論文本研究はデジタルヘルス分野の医学雑誌npj digital medicine誌オンライン版に掲載(2021年12月20日付)されました。タイトル: 「Smartphone-based digital phenotyping for dry eye toward P4 medicine: a crowdsourced cross-sectional study.」タイトル(日本語訳) : ドライアイ研究用スマホアプリ「ドライアイリズム????」を用いたドライアイに対するデジタルフェノタイピングによるP4医療の実現著者: Inomata T1, Nakamura M2, Sung J1, Midorikawa-InomataA1, Iwagami M3, Fujio K1, Akasaki Y1, Okumura Y1, Fujimoto K1, Eguchi A1, Miura M1, Nagino K1, Shokirova H1, Zhu J1, Kuwahara M1, Hirosawa K1, Dana R4, Murakami A1著者(日本語表記): 猪俣武範1、中村正裕2 、Sung Jaemyoung 1 、緑川-猪俣明恵1 、岩上将夫3 、藤尾謙太1 、赤崎安序1 、奥村雄一1 、藤本啓一1 、江口敦子1 、三浦真里亜1、梛野健1 、Shokirova Hurramhon1 、朱俊1、桑原瑞1、廣澤邦彦1、Dana Reza4、村上晶1著者所属: 順天堂大学1 、東京大学2、筑波大学3、ハーバード大学4掲載誌: npj digital medicine掲載論文のリンク先: https://www.nature.com/articles/s41746-021-00540-2DOI: https://doi.org/10.1038/s41746-021-00540-2協賛ならびに研究助成金本研究は、株式会社シード、ジョンソンエンドジョンソン株式会社、InnoJin株式会社、ノバルティスファーマ株式会社、ロート製薬株式会社の助成を受け実施されました。また、JST COIプログラム (JPMJCE1306)、JSPS科研費 (JP20K23168、JP21K17311)を受けました。しかし、研究および解析は研究者が独立して実施しており、助成元が本研究結果に影響を及ぼすことはありません。本研究にご協力いただいた参加者の皆様に深謝いたします。※以下、メディア関係者限定の特記情報です。個人のSNS等での情報公開はご遠慮ください。メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。