1990年12月に産声をあげたアルチザネットワークスは、日本の通信業界と30年以上にわたり軌を一にして成長してきた。創業当時、主に海外のメーカーが供給していた専用の通信計測器は非常に高価なものだった。創業者で現会長の床次隆志氏は、汎用パソコンの拡張スロットに挿入する形状であればもっと安価に計測機能を提供できるのではないかと思いつき、そのアイディアが受け入れられるかを世に問うために会社を設立した。その後も創業時の魂を忘れることなく、常に斬新な発想で最先端技術に挑戦を続けるアルチザネットワークスは、ユニークな研究開発とタイムリーな製品・サービスの提供で顧客ニーズに応えてきた歴史を持つ企業である。
なかでも大きな転機となったのが、無線通信技術への参入だ。「創業時は無線ではなく、有線通信の計測器とテスト環境を提供していました。携帯電話の無線通信向けテスト機器開発には、通信キャリアが3Gサービスを提供開始するタイミングの約20年前に参入しました」と、同社の執行役員モバイルプロダクト事業本部本部長の永井英樹氏はその歩みを語る。
無線通信計測器の開発は、同社にとって文字通り「無謀な挑戦」だったと言う。「有線の技術とはまったくベースが異なりますから、まさにゼロからのスタートで、しかも格段に難易度が高まります。それでも敢えて、無線向けのテスト機器や環境を求める顧客からの声に応えようと、チャレンジを決めました。それから技術を習得していって、無線基地局のテスト製品を開発しました。3G、4G/LTE、そして現在は5Gに取り組んでいます」と永井氏は話す。全く新しい技術に戸惑いながら、試行錯誤を繰り返す日々が続く中、社員1人ひとりのベンチャースピリッツが無線通信計測器の開発を推し進めた。
当時、無線通信をテストする機器やサービスを提供する国内企業はほとんどなく、海外企業に頼らざるを得ない状況だった。その一方、日本のユーザーが求める通信品質への要求は海外よりもはるかに高い。そのため、国内の通信事情に合わせたテスト機器やサービスが日本の通信キャリアには必要だった。高い通信品質を保つため、国内メーカーによる無線通信の計測器開発を求める声が大きくなり、有線のテスト技術で実績を積み重ねてきたアルチザネットワークスへの期待が高まっていたのは当然とも言える。