HOME>インタビュー>FFインタビュー1 『ファイナルファンタジーXII インターナショナル ゾディアック ジョブシステム』
2007/5/25
●より多くの『FF』ファンへ向けたインターナショナル版!
北米版『ファイナルファンタジーXII』(以下、『FFXII』)をベースに、新たなキャラクター育成システム”ジョブシステム”を追加することで、奥深いゲーム性を実現させた『FFXII インターナショナル ゾディアック ジョブ システム』。新システムのほかにも、新モードが追加されたり、ゲームの難易度を若干低く設定して、多くのユーザーに楽しんでもらえるようにするなど、さまざまな改良点が見られる作品である。そんな『FFXII インターナショナル ゾディアック ジョブシステム』について、ディレクターを務める伊藤裕之氏へインタビューを敢行したぞ! 本誌週刊ファミ通6月1日号(2007年5月18日発売)に掲載しきれなかった内容も含め、多くの新情報が判明したので、『FF』ファンは要チェックだ。
ディレクター伊藤裕之Hiroyuki Itou |
多くの『FF』シリーズを手掛けてきたゲームデザイナー。"アクティブタイムバトル"や"アビリティシステム"など、シリーズに欠かせない代名詞的なシステムの生みの親である。 |
元『FF』ユーザーへ向けてのメッセージ |
――本作を制作するに至ったきっかけというのは?伊藤裕之(以下、伊藤) かねてより、「『FFXII』のエンジンで、もう1個何か作れるよね」ということを話していたんです。ただ、新しく作ろうにも海外版用のスタッフしかいなかったため、ダンジョンなどの追加要素は無理でも、遊びの手法を入れ替えることは可能だろうと判断しまして、制作が始まりました。――『FFXII』からのアレンジ部分として、画面サイズが16:9になりましたね。伊藤 16:9のテレビがすべてじゃないですけれども、だいぶ普及していると思うので、その自分の家のテレビをフル活用できるようになったと考えていただければと。――16:9へは問題なく移行できたのですか?伊藤 何も問題なかったですね。――それだけ、もともとの作品が作り込んであったということでしょうね。伊藤 北米版ができていたので、それのおかげなんですよ。北米版を利用させてもらったということですね。――ではボイスに関しても、北米版のままということで。伊藤 そうですね。――ボイスの演出で、種族や地域によって方言があるということなのですが、これは訛りがあるとか、そういうことでしょうか?伊藤 そうなんだ。――えええ!?(笑)伊藤 僕もそれは何かの記事で読みましたね。そのときに「ああ、そうなんだ」って(笑)。広報 それに関して説明させていただきますと(笑)、たとえばアルシドだったら、イタリア語訛りっぽい英語になっているとか、ヴェインだったらイギリス訛りの英語だったりという違いがありますね。――16:9になったことで、ほかに変更点などはありますか?伊藤 デモムービーを変えていますね。画面比率を4:3にしてプレイすると、オープニングでオリジナルの『FFXII』と同じムービーが流れて、
16:9にすると実際のプレイ映像が流れるようになっています。一度も『FFXII』のプレイ画面を観たことがない、"元『FF』ユーザー"に向けてのメッセージといったイメージで、デモムービーを作っています。ただ、きっとこれはインターナショナル版なので、店頭で流れるということはあまりないと思いますが、もし万が一店頭で流れたときに、16:9のほうのデモムービーで、こういうバトルが展開するんだということを観てもらえればうれしいな、と思っています。
――本作での最大の変更点がジョブシステムの追加だと思うのですが、これはどのような経緯で入れることが決定したのでしょうか?伊藤 もともと、このゲームを作る最初の段階では、ジョブシステムを入れる形でデータを作っていたんです。それはもう膨大なデータを。ただ、ガンビット(※1)や、ライセンスボード(※2)などを搭載したうえに、ジョブシステムを追加すると、複雑になりすぎてしまうのでなくしたんです。そのときに作っていた膨大なデータが残っていたので、それをもとに作り直そうと考えました。ただし、シリーズどおりのシステムを入れると、データがさらに膨大になってしまうし、バランス調整も難しくなってしまうので、ジョブを1度決めたら変えられない形にしました。――途中で変更することはできないということですか?伊藤 できないですね。――ひとつのボードを埋めたら、つぎのジョブにいけるということもなく?伊藤 ないです。最初は、ジョブチェンジが入っていたほうがいいだろうと思っていたんですけれども、今回あえてなくしました。1度決めてしまったら、ずっとジョブはそのままなので、ジョブの選択がいちばん時間がかかるところなのではないかなと思います。――ジョブはいつ決めることになるのでしょうか?伊藤 キャラクターが仲間になるときです。都合6回決めることになりますね。ですので、1回のプレイで12種類全部を使うことはできないです。――12種類にしたのは、ゾディアック(黄道十二宮)になぞらえて決められたのですか?伊藤 どちらかと言えば『FFXII』だからです。――あ、そっちなんですか。伊藤 もうひとつの理由は、"イヴァリースアライアンス"(※3)に引っ掛けているんです。イヴァリースというシリーズは、星座に支配されているイメージがありましたので、黄道十二宮の12でしっくりくるかなと。――いろいろな意味があるわけですね。
伊藤 たまたまうまくいっただけですけどね(笑)。――『FFタクティクス』や『FFXII』などですと、黄道十二宮と言いつつも、13番目の隠し要素(蛇使い座に当たる)がありましたが、今回13番目のジョブがあるということは?伊藤 それは入れている時間がなかったので、ないですね。ジョブを選ばないということもできますので、それが13番目である、と考えていただければ。まぁ、いま思いついたんですけれどね。――なるほど(笑)。では、ジョブの名前をいままでの『FF』シリーズとは違うものにした理由というのは?伊藤 本来ジョブシステムというのは、最初に"どんなジョブを入れるか"ということをスタッフで出し合って、その後に、"そのジョブにどんな魔法や技をつけるか"ということを話し合っていくわけですけれど、今回はすでにある魔法や技を各ジョブに割り振っていくという形でジョブを作っています。もちろん新たに追加したライセンス(※4)もありますが、たとえば"竜騎士"というジョブだと、"ジャンプ"という技を習得しそうですけれど、そういったモーションはないので、竜騎士ではなくて槍を持った戦士にしようと。それで、"ウーラン"という槍を使う兵士の名前をつけたわけです。――ウーランって何語なんですか?伊藤 えっと……?(笑) ヨーロッパのどこかの槍の兵士のことをウーランと呼ぶそうです。――まったく新規の独自の名称をつけたのではなく、すべて文献などから調べ出したものであると。伊藤 そうですね。――従来の赤魔導士などが、赤魔"戦士"となっていたりということからも、本作はジョブの雰囲気が違うのかな、と思ったんですけれども。伊藤 このゲームのプレイスタイルというのは、じつはほとんど"戦う"というコマンドを実行していて、魔法で仕切るということがあまりなかったんですよね。だから、魔法はサブ的に使うものだというイメージがあったので、魔導士とするよりは、戦士とひと言入れることで、戦っているイメージが合てはまるかなと。まぁ、深い意味はないです(笑)。
※1:ガンビット | バトル中の状況と行動を設定して、各キャラに自動で行動させる作戦のようなもの |
※2:ライセンスボード | ポイントを消費して、任意に武器や魔法などを習得させられるキャラクター育成システム |
※3:イヴァリースアライアンス | イヴァリースを舞台にした作品をまとめたプロジェクト |
※4:ライセンス | 魔法や技、HPアップなど、ライセンスボード上で取得できるアビリティなどのこと |
驚愕のやり込み要素がプレイヤーを待つ |
――武器の追加というのもあるのでしょうか?伊藤 20本ぐらい追加していますね。――画面にある"シカリのナガサ"などはシカリ専用の武器ということですか?伊藤 そうです。――ミストナック(※5)に新規追加のものはあるのでしょうか?伊藤 ミストナックに関しては、ノータッチです。単純に、それぞれのボードに合わせて取得場所を設定し直しています。ひとつのボードに4ヵ所設定してありまして、その中の3つを取得することができます。どれを取っても、取得場所が違うだけで内容は同じですね。――ライセンスボードに地続きではない、島のような場所がありますが、これはどうやって取得するのでしょうか?伊藤 召喚獣を入手することで、つながります。召喚獣を倒すと、ライセンスボードの島と大陸を結ぶようなところに召喚獣のライセンスが現れるわけです。これは全キャラクターのボードに現れるのですが、召喚獣を取得することができるのはひとりだけなので、誰かひとりが取ってしまうと、ほかのキャラクターのライセンスボードは、また島に戻ってしまいます。――では、全キャラクターがボードを制覇できるわけじゃないんですね。伊藤 そうですね。ただ島にあるライセンスに関しては、ボーナス的な要素になっています。実際に各ジョブを形成する要素というのは、召喚獣に左右されることなく取ることができるようになっています。たとえば、ナイトをやっているキャラに白魔法を覚えさせるには、召喚獣を取得して島をつなげて、そこにあるライセンスを取得するというわけですね。――けっこう悩みそうですね(笑)。伊藤 難易度的には、かなり遊びやすい作りにしていますよ。ただ、真逆の要素として、相当ハードなやり込み要素も追加しています。やり込み要素の難度は、オリジナルの『FFXII』以上です。前作で物足りなく感じた人も驚かれるのではないかと思います。
※5:ミストナック | 各キャラ固有の必殺技 |
新要素の追加や従来要素の変更でより遊びやすく |
――魔法の威力が、オリジナルの『FFXII』よりもパワーアップされているということですが、なぜ今回パワーアップさせたのでしょうか?伊藤 ユーザーさんから、「魔法があまり使えないイメージ」という感想をたくさんいただきまして、魔法のメリットを増やそうと考えました。実際、魔法を取得するのにはお金がかかるし、MPも消費する。発動までには詠唱時間もあったので、メリットが少なかったんですね。ですから、MPを消費する魔法によるダメージを上げています。――相当強くなっていると思ってもいいですか?伊藤 バランスが崩れるほどではないですけれど。具体的には、消費MPを減らしていますね。だからガンビットを組むときに、魔法優先で組んでもらっても、MPが足りなくなることがないと思います。また、ケアルやファイアといった序盤の魔法を範囲魔法にしました。これでだいぶ使いやすくなったのではないかと。――ちなみにガンビットに関して、今回変更されている部分というのはありますか?伊藤 新しいターゲットを入れました。「きっと、こんなのが欲しかったんだろうな」というものを入れましたね。――さらに便利になったというわけですね。伊藤 たとえば、敵が複数いたときに初めて全体魔法を使うように、"敵が2体以上"、"3体以上"というものを追加しています。また、誰かが狙っている敵をみんなで攻撃する"集中攻撃"や、"分散攻撃"とか。集中攻撃というのは誰かが狙っていれば、そこをみんな狙う。分散攻撃というのは、誰かが狙っていれば、それは無視して違う相手を狙うと。それと、ほとんどのターゲットチップが最初からショップで購入可能になっていますので、すでに『FFXII』をプレイしたことがある人は、序盤から必要なものだけを購入してプレイできます。
――召喚獣などで、何か新規の要素があったりということはありますか?伊藤 今回は、召喚獣とゲストキャラクターをリーダーにして操作できるようになりました。――おおお。それはユーザーから要望があったとか?伊藤 むしろ、召喚獣を操作したい、という単純な思いからですね。ただ、これはいろいろな不都合が出てしまう危険性があるんです。召喚獣は大きいので、マップにめり込んだりしてしまうし、どんなバグが潜んでいるかわからない。だから、オリジナルの『FFXII』では、キャラクターだけの操作にして安全性を高めていたんですよ。でも召喚獣を操作できたほうがおもしろいのであれば入れてしまえと。――操作できるということは、召喚してからすぐに大技を放つこともできるわけですか?伊藤 そうですね。大技を放ったら、すぐに帰還してしまいますが。――『FFXII』では、ゲストキャラクターのラーサーがハイポーションを勝手に使ってくれて、すごく助かったんですけれど、今回はそういうことは?伊藤 今回は使わないですね。なぜかというと、『XII』のときは彼専用のアイテムを使っていたんですよ。ただ、今回リーダーとして操作できるようになることで、プレイヤーのアイテムを使ってしまうわけです。これはマズイと(笑)。テスターの子たちから、いろいろとクレームが入りまして。使わない仕様になりました。――今回、神獣の集合イラストが紹介されていますが、なぜこのイラストがいま出てきたのかなと思ったのですが。まさか召喚獣が増えているとか!?伊藤 増えていないですね。今回、召喚獣が操作できるようになったということと、ゲーム中いろいろと関わりのあるキャラクターたちなので、描いていただいた次第です。――イラストは、どなたが描かれているのですか?伊藤 皆葉さん(※6)に描いてもらいました。
※6:皆葉さん | 皆葉英夫氏。有限会社デザイネイション代表取締役社長。『FFXII』ではアートディレクターを務めた |
――やり込み派のプレイヤーは気になるところだと思いますが、モブ(※7)は追加されているのでしょうか?伊藤 追加されていません。――えっ、そうなんですか!? モブに関して変更点などはあるのでしょうか?伊藤 モブから盗めたり、落としたりするアイテムが変更されていたりしますね。あとはモブの強さの調整もされています。体力を下げて攻撃力を上げるという変更が、全体的に行われています。――そのほかにやり込み要素というのは?伊藤 じつは、新しいモードをふたつ用意しているんです。ひとつは"トライアルモード"というものを入れました。これは100戦連続でモンスターを倒していく、バトル専用のモードです。以前は本編をプレイして苦労して手に入れた強い武器の力を試す場所がなかったので、ここで試してもらえればと思っています。セーブデータがひとつでもあれば、そのセーブデータから、このトライアルモードを始められます。――もうひとつのモードというのは?伊藤 そちらに関しては、続報でお知らせします。――了解しました。それにしてもふたつもモードが追加されているというのは非常に楽しみですね。伊藤 『FFXII』のオリジナルメンバーは、すでに別のチームに行っているので、新ボスや新ストーリーなどを増やすという方法以外で何かできないか、というのが本作のコンセプトなんです。そうしてできたモードと言えますね。なおかつ、とっつきやすくしてあるので、最近の『FF』を遊んでいないという方でも手軽に遊べると思います。――間口は広いけれど、奥は深くなっていると。伊藤 そうですね。あとやり込み的なところで、"最強の矛"が比較的簡単に手に入るようになっています。オリジナル版のときはあまりにも難しすぎたので僕も反省しまして。トレジャーから確実に入手できるようにしました。本作では、トレジャーの中に魔法も、武器も、技も入れていまして、それらが入っているトレジャーからは100パーセントそのアイテムが手に入るようになっています。――それは、だいぶやさしくなっている感じがしますね。伊藤 海岸に並んでいる16個の宝箱もやめました。――(笑)。
※7:モブ | 討伐依頼が出されているモンスター |
――ほかにも新要素はありますか?伊藤 "つよくてニューゲーム"が追加されました。1度クリアーすると"つよくてニューゲーム"が選べるようになります。――なるほど。伊藤 あとはキャラクターの移動速度やバトルの速度を速くできる、ハイスピードモードがあります。これはおよそ4倍速ですね。実際のプレイ時間も単純に4分の1ぐらいにはなると思いますよ。ただ、ちょっとやりすぎたかな、とも思っています。あまりに速すぎて、コマンドが入れられなかったりもするので。――ハイスピードモードには、どのようにして切り替えるのですか?伊藤 フィールド画面でボタンを押すことで切り替えられます。ハイスピードになるのは、おもにバトル中とフィールドの移動時ですね。――技術的に、4倍速にすることができるんだなと驚きました。伊藤 簡単にはできないですよ。バグがたくさん出たので、いろいろと作り直しましたから。――チョコボはどうなるのですか?伊藤 チョコボもハイスピードになりますね。もちろんターボもより速く。――それでは最後に、読者の皆さんにひと言メッセージをお願いします。伊藤 最近は『FF』をやらなくなった、という人たちにも遊んでもらえるように、かなり遊びやすくバランス調整をしています。タイトルのあとに、"イージータイプ"とつけたいぐらい。トレジャーも全部刷新して、お金にも困らないぐらいの仕様になっていますので、『FF』から遠のいていた人も、『FF』生誕20周年の2007年に発売される本作を、ぜひ遊んでいただければと思います。
※本インタビューは、週刊ファミ通6月1日号に掲載されたインタビューを再構成したものです。
©2006, 2007 SQUARE ENIX CO.,LTD. All Rights Reserved. CHARACTER DESIGN:Akihiko Yoshida ※画面は開発中のものです。