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ダイソンの定理 破壊+発想(実験+冒険)=ものづくり from 『WIRED』VOL. 3

ダイソンの定理 破壊+発想(実験+冒険)=ものづくり from 『WIRED』VOL. 3

ジェームズ・ダイソン。ダイソン本社内の電磁両立性試験室にて。

ジェームズ・ダイソン卿を、ビジネスマンと呼んではいけない。ゴミ袋がいらない掃除機、羽のない扇風機など、それまでの因習を打ち破ってきた家電製品の数々は、2010年だけで約2億6,000万ポンドもの利益をもたらした。この30年間で、彼は、妻の収入に頼る芸術家という立場から、推定個人資産14億5,000万ポンドの資産家へと姿を変えた。それでもダイソンは引き下がらない。「わたしはビジネスマンじゃない」と、彼は言い張る。「わたしはデザイナーであり、エンジニアなんだ」。

ダイソンの定理 破壊+発想(実験+冒険)=ものづくり from 『WIRED』VOL. 3

ダイソン本社は、イギリス南西部ウィルトシャー州の街、マームズベリの郊外にある。マームズベリは、古代ローマ以前からの遺跡が残る街だ。本社の近くには箱状の建物が並んでいる。周囲にはサッカー場が4つあり、ゆるやかに波打つ屋根が、近隣に広がるコッツウォルド丘陵に呼応する。ファサードの大部分は透明ガラスで覆われているが、ダイソンが1日の大半をそこで過ごすエンジニアたちの作業場がある地上階は、ミラーパネルで隠されていて、外からは見えない。

鉛色の空の下、7月上旬のある日の午後。ダイソンは広々とした2階のオフィスで、64歳とは思えないほど引き締まった身体に銀髪をなびかせ、高い背もたれが付いたイームズの椅子に座っていた。彼のオフィスは建物の北側にあり、透明なパーティションで区切られている。四角形のカレラ大理石製のテーブルがドンと設置され、壁側を見ると、向こうの奥の角までメタル製の棚が長く延びている。その棚には、しおりがあちこちに挟まれた、デザイン集の数々が収めてある。

その次の壁には、ダイソンの発明の数々が並べてある。吸引力でおなじみの「デュアル・サイクロン」、即乾性に優れたハンドドライヤー「エアブレード」、そしてバフェッティングなしの「エアマルチプライヤー・ファン」。いまではその作品群に、ポータブル・ファンヒーターという仲間が加わった。それは3年にも及ぶ、並大抵ではないエンジニアリングの苦難の結晶だ。その名も「ダイソン・ホット」。

ダイソンは彼のファンヒーターが、従来のポータブル・ファンヒーターを、すべて過去の遺物に変えてしまうことを願っている。ダイソンのやり方は、日常的なものを再発明して、新たに見直すことだ。ごく標準的な日用品は、デザイン的な意味で欠陥があると彼は信じている。そのアプローチは、「Doing a Dyson(ダイソンする)」という言い方でいまや広く知られている。「いま市場に出回っているものだけをみんなつくり続けようとするし、実際買えるのもそうしたものがすべてなんだ」。ダイソンは、柔らかなクイーンズイングリッシュで語る。「だが、それはわたしの好きなやり方じゃない」。その戦略上のメリットは、すでにダイソンのマーケットが確立されていること、そして彼にはユーザーの視点に立った開発が可能なことだ。

ダイソンの定理